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[report] NHK技研公開 2005

pencilk 2005. 10. 5. 22:05
1.展示の概要
NHK放送技術研究所は1930年に設立され、今年で75周年を迎えた。2005年5月26日から29日までNHK放送技術研究所で行われた「NHK技研公開 2005」は、技研が歩んだ3/4世紀を振り返り、さらにこれから技研が目指す方向を提示した展示である。
展示は大きく研究推進の指針を示した「技研ビジョン」、デジタル放送をさらに魅力的にする技術を展示した「デジタル放送の高度化」、そして技研ビジョンを達成するため必要な「技術展示」の3部分で構成されている。
まず、技研が目指す方向をまとめた「NHK技研ビジョン“NEXT”~人の可能性に学ぶ放送技術~」は次の3つである。第1は、「知る:高度コンテンツ制作・機動的報道システムの実現」である。ケーブルレスカメラ、複数カメラ自動撮影ロボット、バーチャル映像システムを試作し、これらで構成された新しい概念の高機能スタジオを提案する。そして高度なメタデータ抽出・編集・活用を可能とするインテリジェント制作支援システム、どこでも最適な無線ネットワークを構成するアドホックネットワーク、長時間撮影のできる超高速度ハイビジョンカメラ、小型高感度画質カメラに必要な有機撮像デバイスを試作する。
第2は「使う:ユビキタス・ユニバーサルサービスの実現」である。信頼性が高く多様なサービスを可能にするエージェント技術やセキュリティ技術を確立するとともに、ユビキタスサービスを提案する。また、視覚・聴覚障害者、高齢者向け字幕制作システムの研究を進め、個人の特性・視聴環境に合わせて自在に楽しむのができるコンテンツと視聴システムの基本概念を示し、視聴環境適応システムを提案する。
第3は、「見る:究極の高臨場感システムの実現」である。具体的には大画面・広視野映像のスーパーハイビジョン、立体テレビ、ディスプレイの高解像度化・高画質化などの開発を進める。スーパーハイビジョンについては人間科学的なアプローチによる信号方式の諸元を決定し、標準化を進めていく。こうした3つのビジョンは、人間科学面のアプローチ、デバイス基盤技術のアプローチ、システム技術などのアプローチで、3年後の達成を目標としている。
日本だけでなく世界的な趨勢である「デジタル放送の高度化」パートでは、“いつでも、どこでも”テレビが視聴できるという時代を切りひらく「携帯端末向けサービス」と、ますます便利に進化し“コンテンツの玉手箱”のような役割を担う「サーバー型放送」の2つの機能について展示していた。具体的には、緊急警報信号(EWS )の入った周波数成分のみを待ち受けることによる低消費電力化、AVC/H.264 映像符号化方式の高画質化、携帯端末向けデータ放送検証用BML ブラウザーなどの開発が進められている。
次に「技術展示」のパートでは、展示の最初に示したNHK技研ビジョン“NEXT”を達成するため必要な多様の技術を展示している。まずカメラに関した技術としては、肉眼でとらえられない一瞬の現象を鮮明に撮影できる超高速度高感度カメラ、ドラマなどの夜間シーンの自然な表現を目指してノイズの低減と肌色の再現性向上を図ったドラマ制作用ハイビジョンHARP カメラなどがある。音響技術としては自然で聞き取りやすい高品質な音声合成方式の研究、100kHzまで高音質で収音可能の超広帯域マイクロホンなどがある。
それから地上デジタル放送に関した技術としては、走行中の車内でも乱れのないきれいなハイビジョン映像を見ることができるための移動受信技術の研究、OFDM 信号の1本1本のキャリアの誤り率、および帯域全体にわたる誤り率の分布を測定できる装置、地上デジタル放送を山間部やビル影など電波の弱い地域にも普及させるのができる光ファイバー伝送システムなどが展示されている。
その他、映像・音声・言語研究の人間科学アプローチ、視覚に障害のある人に分かりやすく情報を伝えるためのGUI や図表がわかる触覚提示システム、ワープロで台本を書くだけでCGや音声合成を使った番組が簡単に制作できるTV4U(TV for You)、通信ネットワークによる高画質な映像配信サービス、スタジオで 高画質なハイビジョン映像を安定して無線伝送できるミリ波モバイルカメラ、将来の大画面・超高精細ディスプレイを目指す冷陰極ディスプレイ、最高画質のハイビジョンを目指す ハイビジョン1080/60pシステム、高画質ハイビジョンで毎秒300フレームの高速度撮影できる5倍速ハイビジョンハイスピードカメラなどが展示されてある。
こうしたNHKの研究開発成果は、デバイスから番組制作機器、家庭用受信機関連まで、放送にかかわる分野全般で使われるほか、放送以外の分野でもハイビジョン技術の美術館や博物館への利用、超高感度ハイビジョンカメラの深海探査や医療への利用など、幅広い分野に活用されている。

2.特に重点的に見た展示
今回の技研公開で私が一番注目したのは、ただ一方的に送信するだけであった従来の放送の概念自体の変化を持ってくる、放送での「又方向コミュニケーション」を支える技術である。元々放送とは、特定の2人の間の1対1コミュニケーションの通信と違って、1対不特定多数の情報の送信である。しかし、未来の放送は放送局から一方的に送信する情報を視聴者が受動的に受け取るばかりするのではない。これからの放送は不特定多数ではなく、視聴者一人一人に対して1対1コミュニケーションをすべきである。
展示されていた技術の中で又方向コミュニケーションの媒体としての放送を支える技術には、まず、高度化するデジタル放送の受信機をだれでも簡単に操作できる「テレビ視聴エージェント 」がある。これまでに、対話によって多数の放送チャンネルやホームサーバーに蓄えられた沢山の番組の中から見たい番組を探したり、視聴者の好みに合わせて番組を推薦できるテレビ視聴エージェントを試作した。それに今回、番組を見ながら視聴者が抱く疑問にその場で答えてくれるQ&A機能を付加したので、テレビ操作とQ&A機能をスムーズに使い分けられる。又、エージェントは視聴者の質問を解析し、データ放送・字幕放送の内容やインターネット上にある情報などから自動的に適切な回答を探す。この技術は、一方的に放送を見せる機能だけを持っていたテレビが、視聴者との相好コミュニケーションできる媒体になるようにする。
今後は試作システムの評価を行い、ユーザーインターフェース全体として使いやすいシステムになるよう改善していく。また、今回の試作システムで対応可能なのは、WHO・WHAT型質問(「~はだれですか?」「~とは何ですか?」を問う)に限られているが、将来はWHY・HOW型質問(「なぜ」「どのように」を問う)も扱えるような技術開発に取り組む。
それから、視聴者の多様な趣味や嗜好に答えて、その人だけのためのテレビ番組を受信機の中で作り出して提供する「TV4U(TV for You)」の研究も進めている。TV4Uでは、番組制作を経験したことのない人でも、ワープロで台本を書くだけでCGや音声合成を使った番組が簡単に制作できる。今回これをさらに発展させ、インターネットで自分のホームページを持つように、インターネット上に自分だけの放送局を持ち、番組を公開できる新しいシステムを作った。この技術によって、これまで一部の専門家のものだったテレビ番組の制作・公開が、だれでも簡単にできる身近なものになる。
ワープロ感覚の入力で番組が作れるツール「TVクリエーター」を使って、だれでも台本を書くだけで、適切な演出が自動的に付加されたテレビ番組が作れる。インターネット上に個人の放送局「マイ放送局」を開設でき、作った番組は、ボタン1つでこのマイ放送局があるサーバー(TVサーバー)にアップロードされ、公開される。あと、番組視聴ツール「TVブラウザー」を使って、このマイ放送局にアクセスして番組を見ることができる。この時、自分の好みの演出に元の番組を作り変えたり、好みの内容だけを選択して見るなど、見る人の嗜好に合った楽しみ方ができる。
今後の予定は、だれでも簡単にテレビ番組として情報を公開し、自分の好みに合わせて見られる、新しいテレビ放送の仕組みを、地域の小コミュニティーのための新しいメディアとして実用化していくのである。
このような技術の開発によるデジタル放送は、現代の又方向コミュニケーションの代表的な媒体と言えるインターネットと非常に似ている形になると思う。そうしたら、インターネット上の番組の掲示板を通じてではなく、実時間で視聴者とのコミュニケーションのできる、実際視聴者の要求によって変わる放送というのは、果たして放送と言えるのか。
今までの放送は公衆の電波を借りて送信するもののため、全国民が楽しめる番組を作ることを目指してきた一方、あまりにも娯楽に片寄ってはいけないという所も放送の公共性として求められてきた。しかし、視聴者自分の求めた通りに変更できる放送とは相好コミュニケーションができるという所では非常に良いと思うが、ある意味でそれは視聴者が見たいことだけを見せる、あまりにも娯楽に充実した放送になってしまうことではないか、少し心配になる。
また、誰でも台本を書くだけで、適切な演出が自動的に付加されたテレビ番組が作れる TV4Uは、多様な視聴者の好みに合う番組を提供できる側面と、視聴者との相好コミュニケーションができるという所ではいいかもしれないが、視聴者が自分の好みで作った番組がネット上に公開されるのはちょっと危ない面があると思う。誰でも番組を作れるというのは、ややもすればもう専門的に放送を作る人は要らないということにつながってしまう恐れがある。

3.展示の感想
今回の展示を見て一番大きく感じたのはやはり果てしなく続いていく技術の発展と、‘いつかは実現できると聞いたことはある’くらいだった技術が直に実現できるということの凄さであった。技研公開に展示された技術が全部実現された未来の放送は、より人間に近づけ、人間の友達として存在できると思う。
放送の制作にはカメラやいろいろ多様な機械や技術が利用されるが、基本的に放送を作るのは人間である。人間が開発させた技術を利用して作った放送が、また人間を笑わせたり泣かせたりする。すなわち放送というのは結局人間が人間を楽しめる、人間と人間の間のコミュニケーションの1つであると私は思う。
展示のテーマである「NHK技研ビジョン“NEXT(NHK EXTechnology)”」は、より豊かに正確に表現したい(Express)、人の知識活動に卓越した技術を生み出したい(Excel)、放送を活用する場面を拡大したい(Expand)、というNHKの気持ちを込めている。このビジョンでは、人間の知恵や行動を理解した新しい技術を創出することがブレークスルーにつながるという考えに基づいて、今後技研が進める研究開発を「人の可能性に学ぶ放送技術」と位置づけ、人のメカニズムに学びながら新しい技術を生み出すことを目指した。その対標的な例が人の知と心に学ぶ、映像・音声・言語研究の人間科学的アプローチである。
こういう放送技術の開発によって、人間は人間だけの力ではできないいろいろなことを成し遂げるのができた。例えば、超高速度高感度カメラを利用して、肉眼ではとらえない一瞬の現像を鮮明に見れたり、高音質で周波数100kHzまで収音できる超広帯域マイクロホンは、可聴域の上限といわれている20kHzを超える高い周波数を含む音響信号が聴感に与える影響を研究した上で、超広帯域音響信号による高臨場感オーディオに活用できる。
又、触覚ディスプレイや触覚ナビゲーターを利用すれば、視覚に障害のある人も指先で触れることで図などの形状がよくわかったり、データ放送のメニュー画面や階層、あるいはEPGの表の構成を指で触れて理解できるとともに、簡単な操作ですばやく知りたい情報を得ることができる。すなわち人間の可能性に学ぶ放送技術によって、人間は人間の限界を超えることを実現できるのである。
また今回の技術を観覧して、未来にはコンピューター、ケータイ、テレビ、その他にもcd playerやカメラなどの境界がだんだん薄くなると思った。今でもケータイで写真を撮ったり、インターネットをしたり、テレビを見るのができる。各分野での技術の発展に基づいて、もっと楽に、もっと現実に近い(それとも現実よりももっと現実っぽい)放送を楽しめる未来が直に来るはずである。
だからこそ、放送関係の仕事をしている人々の放送制作に臨む正しい姿勢が必要である。放送の概念や放送の役割などついてもっと深く考えて、これからは放送の意味がどう変わっていくのか、番組を作って視聴者に見せるということの意味はどう変化していくのかなどをもっと真剣に考えるべきである。